日本刀は古くからわが国が誇る鉄の文化財です。

四方山話2 再び代々木へ

2012年07月31日 更新

「明日午后にお訪ねします。」

電話を切ってからしまったと思った。

刀を観に来いとの話で、この時が四回目であった。観に来いとは“買わないか”との意が十分に含まれている三回目までの連絡は丁重に断っていた。

刀銘は聞いていたので、素晴らしい銘であることはよく解っていたが、私も刀歴が永くなっており、その分ひねくれた心持があり
「そんな刀があるものか」
と思って断っていた。四回目の電話は土曜日の午后で、最近は忙しくてまともに日曜日を休んだことがなかったが、翌日は何の予定も無く、これにでも行くかとか、美術館の催し物など捜していた時の電話で、思わず伺いますと約束してしまったのである。

たまの日曜を気乗りのしないことでつぶしてしまうと、いやいやながら途中で菓子折りをひとつ買い、二時間かけて先方にうかがった。

早く帰ろうと心に決めていたのに、なかなか刀を観ろと云われない。しばらくは諸々の話につき合い、やっとごらんになりますか、となった。
一目でくぎづけになった。30分後には車に飛び乗って帰路についた。支払いの算段も考えず、踊るような心を静めるのに苦労したが、道を間違えることなく帰宅した。

さて、日本美術刀剣保存協会を出て、代々木駅へと手ぶらで伺う。
協会のT先生が審査の受付をしている審査会を楽しくするため、刀を置いて帰ってくれとのことで、手ぶらになったのである。

代々木駅のホームに出ると思わず立ち止まらずにはいられない程の美しい婦人が立っていた。
「東京駅へはこのホームでいいのですか?」
必要もないのに問いかけ、電車が来るまで二言三言話をした。何の話だか忘れてしまったけれど、今でもあの御婦人の顔は忘れていない。美しい人だった。もちろん今も「そんな刀があるものか」と思った銘刀は私の手元にある。

永い刀歴の中ではこんなことも有るのです。
でもどのように工面して代金を支払ったかはすっかり忘れてしまいました。