日本刀は古くからわが国が誇る鉄の文化財です。

四方山話32「最後の喜び」

2017年11月06日 更新

刀剣趣味の第一歩は、名刀か、名刀のように観える品を見るか、見せられることから始まる。
気になって、昼日中から、頭を離れなくなると第二歩目に入ったことになる。

どの位の時間が掛かるかは個人差があるが、所有欲に負けて、購入資金の調達に努めだすともう第三歩目で、その手段がいかような状況のものであるかを問わず、後戻りすることが不可能になる。

さて、入手した刀を眺める時が、その過程のいかんに掛わらず、幸福にふるえる時である。
ここまでで趣味が充足され終わりだと思っていたが、もう一歩先が有ることに、この頃気がついた。

全国大会や今回のような地方大会に参加していると、並べられた刀が輝いてみえ、観賞する人達の声なき喜びが、ヒシヒシと伝わって来る気がする。


見、見せられ、欲しくなり、金を工面し入手した刀剣は(思った通りの名刀であったとして)、云わば、刀にとっての晴舞台の大会に積極的に出展することが、刀剣趣味の終りの醍醐味なのです。

夜中に又は、無人の室で、一人、ニタニタ笑みを浮かべて、自己満足に浸っている間は、まだまだ通人とは云えません。
名刀も可愛相ですし、貴方の刀を観て喜ぶ人々の姿を影からこっそり眺めることこそが、通人の最後の振りなのです。

この時を経験せんが為に、永い永い時間を掛け、家人には表面上はともあれ見離されながら、刀剣の勉強をするのです。

何より、購入資金の工面に関する言語を絶した苦労はこの時の為に有るのです。

影から素知らぬ振りをしたまま、全ての貴方の感情を殺してこっそり眺めるのです。

どんな非難、中傷にも負けず、過した永い時間が報われる瞬間がその時なのです。

皆さん、幸福になりましょう。千年の歴史を持つ銘刀の勉強を続けているのです。
多種多様な苦しみに耐えて来たのです。最後の喜びを逃すことはありません。

10月29日 熱田神宮にて