日本刀は古くからわが国が誇る鉄の文化財です。

四方山話6 煩悩は深い

2012年09月10日 更新

豊後竹田市の「荒城の月」で有名な岡城址を通り過ぎ一路東に進むと、大野川の支流奥岳川に至る。(原尻の滝スモールナイアガラで有名)
奥岳川に添って南に向かうと最奥が奥岳溪谷の尾平である。
5年程前まで、山登りに精出していた。

暑い夏期は沢登り一辺倒になり、渓流靴にヘルメット、ハーネスに身を固め、水の中を歩いたり、つかったり、滝のシャワーをあびながら登ったりの涼味満点のクライミングを楽しんでいた。

祖母山の山懐尾平は無数の谷のベースになっている。
いささか高度な登攀技術を要求されるので、入山者は少なく、めったに人に出会わない。

勤務を終えて出発することが多く、尾平着は夜中になる。
テントを張り、夜食と寝酒を楽しみ休むことになるが、そのチョット前に小さなシートを持って夜空を眺めに行く。足元を照らすライトを消すと、漆黒の闇である。

寝っころがって眺める夜空は、輝く星で埋めつくされている。
身体だごと吸い込まれそうな空間は想像を絶するものがあり、何事があろうと、もうどうでもいいと悟りを得たような気持になる。

ところが私は煩悩が深い。しばらく見入っていると、漆黒の星で埋まった夜空が、黒く深い地金に輝く沸えが微塵についた刀に見えてくる。悟りどころか、胸さわぎが起り、寝酒を追加して眠らなくてはならなくなる。

祖母山系の傾稜は縦走路になっており、奥岳溪谷の本谷からどの谷に入っても終了点は縦走路になる。
緊張感がとれるせいだろう、水の中のクライミングを終えると、高速道路に出たような気分になる。

車に戻る途中、尾平越えと呼ぶ峠があり、峠から左に少し急坂を下ると、尾平よりの道路にでる。
面白くもなんともないコンクリートの道だが、私には立ち止まり、煙草に火をつけなくてはならない場所が有る。

奥岳溪谷を中に対岸に目をやれば、障子岳、鳥帽子岩、天狗岩、大障子岩、障子岩と人を寄せつけない岩峰が連なっている。

「又ですか!!」何度も同行した仲間が笑う。

笑えば笑え、頭を左から右へ、右から左へと回さなくてはならない程の岩峰群が、私には福岡一文字の重花丁子に見えるのである。

巨大な重花丁子が、大迫力で中空に横たわっているのです。

山を離れてずいぶんになる。
そのうち、天気を見定めて、奥岳溪谷の夜空と祖母山系の稜線に会いに行こうと思っている。